越境取引でのコミュニケーションの壁は、言語の壁だけでない!②

スペイン企業|FOODEX JAPANでの出展支援事例

言葉と文化のハードルを越え、円滑な越境ビジネスを支援しているエーワン代表の畠山です。

2023年からスペインのパエリア用スープ専門店である「エル・パエラー」の日本市場進出のための活動を支援しています。

本ブログでは、スペインのパエリア用スープ専門店である「エル・パエラー」の日本進出での「コミュニケーションの壁」がどこにあったのか、またどのようにその壁を解消するお手伝いをさせていただいたのか、解説いたします。

第2回の本記事では、エル・パエラーの事例をもとに、エーワンで行ったFOODEX JAPAN2023での出展支援について解説します。

FOODEX JAPANとは?

海外食材を日本市場に広めるには、日本市場のバイヤーとの出会いが不可欠です。

しかし、バイヤーとの出会いは簡単なものではありません。そのため、日本で開催されている食品展示会に出展し、バイヤーとの出会いを増やしていくことが重要です。

FOODEXJAPANは、アジア最大級の食品・飲料の国際展示会であり、毎年東京ビッグサイトで開催されています。FOODEXJAPANには、食品商社をはじめ、小売、外食、給食、中食、宿泊、食品・飲料メーカー、物流、レジャー施設など、食に携わるあらゆる業種のバイヤーが来場します。

FOODEX2023に出展したときの様子

展示会用リーフレットの翻訳〜直訳では日本市場に打ち出すべきUSPがわからない

展示会に出展するならば、来場者に説明するためのリーフレット資料を作成しなければなりません。そこでエルパエラーに英語版の資料を依頼しましたが・・・なかなかデータが来ず。

結果、エルパエラーのスペイン本国のマーケティング担当者から英語の資料が来たのが、なんと展示会の約2週間前。急いで翻訳作業をしました。

翻訳作業は、ただ英語をそのまま日本語に訳すだけでは、日本人に意味が通じる言葉になりません。

例えば、エル・パエラーのスープについて一文で説明したこちらの文章。

THE ONLY PAELLA PREPARATIONS AND WOOD-FIRED BROTHS.

→直訳は「ただ一つの薪火パエリアキット&ブロス」です。

※Brothsとは、煮汁・だし・ブイヨンのこと

しかし、この「ただ一つの」という言葉の裏には、工場のガスの火ではなく、薪火で炊き上げたスープをパエリア界で初めて商品化したという意味が隠れているのです。

したがって、「世界で初めて商品化 薪火パエリアキット&ブロス」と要素を足して翻訳しました。

英語を翻訳するだけでなく、その表現の裏にどのようなストーリーが隠されているのか。どのストーリーを打ち出せば、日本市場に響くのか。

これはエル・パエラーの商品ストーリーを何度も担当者からヒアリングしたからこそ、表現の裏まで考えた翻訳をしています。

さらに、エルパエラーのシェフの説明の部分も直訳のままでは日本市場に伝わらない表現になっていました。

説明のなかで紹介されているスペイン本国では著名な人物たちも、日本では無名であるためです。

そこで、シェフのUSPがより日本人バイヤーに伝わるように、英語記述にはない表現を追加して日本語に翻訳しました。

スペイン本国から来た英語表現google翻訳での直訳エーワンで作成した翻訳
Rafa Margós, the chef of the 300,000 wood-fired paellas. His mastery of fire has made him a firewood adviser to Quique Dacosta or José Andrés.ラファ・マルゴス、30万個の薪窯パエリアのシェフ。彼の火の熟練により、キケ・ダコスタやホセ・アンドレスの薪アドバイザーになっています。これまで30万食の薪火パエリアを作ってきたシェフ、ラファ・マルゴス。熟練した薪火の技で、スペインの三ツ星レストランシェフのキケ・ダコスタや、世界的に有名なスペイン人シェフのホセ・アンドレスの薪火調理アドバイザーにもなっている。

スペイン人にとっては定番メニューであるパエリアの内容も、パエリアをよく知らない日本人に分かるように、意味を付け加えました。

このように、「スペイン人には当たり前のこと」でも「日本人には当たり前ではない」ことがたくさんあります。

スペインの食材を日本市場に新しく紹介するには、説明を追加したり、説明の順番を変えたりするなど、日本人がわかるように説明の仕方を変える必要があるのです。

さらに、英語の裏に隠された、日本人が「これいいね!すごいね!」と共感するストーリーこそ、まさにこの商品のUSPです。しかし、スペイン人が感じるこの商品のUSPと、日本人が感じるUSPは、同じ商品でも国が違えば、それも異なるのです。

展示会マテリアルでは、日本市場で打ち出すべきUSPはなにかを正確に捉えながら、資料を翻訳することが大事です。

プレゼン対応〜ストーリーを説明し、日本人に文化的背景を説明する

展示会期間中、エーワンは全日に同行し、ブースでの商品説明と、小ホールで行われたプレゼンでのプレゼンテーターを務めました。

展示会の場では、出展者が来場しているバイヤーに向けてプレゼンテーションをする機会があります。そこはスペインと日本の文化的背景を比較し、商品の特徴を伝えることができる絶好の機会です。

「スペインの本場パエリアは美味しい!」それを日本人に伝えたいと思ったら、スペイン人自らプレゼンするのが一番だろう、と思うかもしれません。

しかし、実際に展示会でプレゼンをすると、私の当初の予想とは違った反応に出くわしました。

当初、プレゼンはエルパエラーのシェフ(スペイン人)が英語で行い、エーワン代表である私が同時通訳でご説明する予定でした。

ところが、それを展示会事務局に伝えたところ「同時通訳ではなく、日本人であるあなたがプレゼンしてくれないと困る」と言われ、プレゼン当日に急遽予定を変更し、私が同時通訳ではなく、プレゼンそのものをすることになったのです。

急遽プレゼンをすることになった私ですが、それまでエルパエラーから、このパエリアスープに込めた思いをたくさん聞いていたので、彼らから聞いた「スペイン本場のパエリアにまつわるストーリー」を日本人目線で説明しました。

スペインのプレゼンブースで発表する代表・畠山

まず、プレゼンでは日本とスペインの違いを比較しながら、文化的な背景を説明しました。

たとえば、スペインのパエリアは薪で焼くことが多いですが、これはパエリアがもともと外仕事をしていた男性たちが作った「男料理」だったことに由来しています。家族との時間を過ごすときに、男性たちは薪で焼いたパエリアを家族に振る舞いました。

このような文化的な背景の違いを説明することで、エルパエラーのパエリア用スープの一番のPRポイントである「薪火のスモーキーな香りがするパエリアがキッチンでも再現できる」という点のすばらしさを、日本人に共感とともに伝えることができるのです。

通訳は「忠実に翻訳すること」が仕事。しかし、忠実な翻訳が日本人に「買いたい」と思わせるかどうかは別問題

では、なぜ通訳が同時通訳で説明するだけでは、日本人バイヤーに「買いたい」と思わせる説明することができない足りないのでしょうか?

実は、翻訳者は「相手が言っていることを忠実に訳すこと」が求められます。したがって、「日本人には要素を足し引きして、こう伝えたほうが理解が深まるだろう」と仮に翻訳者が考えても、勝手に足し引きして伝えてはいけないのです。

ただ忠実に翻訳するだけでは、海外食材を日本人バイヤーに理解してもらうことは難しいといえます。日本人の文化的背景を理解し、その食材のどの部分をUSP=差別化要因として説明すべきかといった、情報の取捨選択が求められるからです。

その情報の取捨選択は、今回であれば本場のスペイン人シェフでも、忠実に訳す翻訳者でもうまくいきません。日本の食材バイヤーにどの要素をどのような文脈で伝えればよいか、「広報PRの視点」をもった日本人でないとできないのです。

日本人に決めてもらうには、「決めるための材料」がたくさん必要

さて、FOODEX JAPANに出展したエルパエラーですが、日本人バイヤーに買ってもらえたのでしょうか?

・・・ここに日本のビジネス慣習が色濃くでているのですが、展示会にでたからといって、すぐに注文が来るわけではありません。日本人にとって展示会はあくまで情報収集の場。本当に契約するまでは、長い期間がかかります。

この意思決定まで長い期間がかかることの理由には、日本のビジネス環境において、検討プロセスを「稟議書」として残すことに代表されるように、多くの人が意思決定に関わっていることが挙げられます。

多くの人が納得して意思決定がされるには、関係者から出てくる多種多様な質問をすべて解決するための材料が必要なのです。

例えば、エルパエラーのスープを購入しようとするならば、

・このスープにどのような材料が使われているのか?
・危険な食材、日本で認められていない食材が入っていないか?
・どのような製造プロセスで製造されているスープなのか?
・つくっている人はどんな人なのか?経験や実績は?
・賞味期限はどれくらい?
・日本の食材ともマッチする味?日本人でも美味しいの?

・・・などといった質問が寄せられました。

エル・パエラーはすでに多くの国に輸出実績がありますが、どの国へもまずは展示会などの実演販売から始まるそうです。実演販売で美味しいと思ってもらえると、とりあえず1回購入をしてもらい、そのロットを販売しながら、誰に向けて、どうやって販売していくか様々な調査やプロモーションが同時進行されるそうです。

一方、日本では先述のように、購入に値する商品だと納得してもらえるための材料を、事前にすべて提供してあげる必要があるので、なかなか決まりません。

海外では展示会でもどんどん購入の意思決定がされていくため、エル・パエラーの担当者も「日本はぜんぜん決まらないね!」と驚いていました。日本のビジネス環境は、海外と大きく違う点が、ここにあるのです。

海外食材を日本市場で広めるためには、単に「おいしいもの」だけでなく、「日本人が納得するための材料をすべて提供する」必要があります。

この「日本人が納得するための材料」は、日本のビジネス環境を熟知した日本人でなければ、細部まできめこまやかに材料を提供することは難しいでしょう。

最終回となる次回は、この展示会に出展する前、都内で一般消費者に向けに開催したパエリア試食会の成果について解説します。